アジア哲学・非西洋の音楽からインスピレーションを得た独特の世界を紡ぎ続ける作曲家、西村朗。彼の手になるパーカッションの曲は、アジア的なエキゾチズムを閃かせながらもあくまで日本的、かつ現代人の悲鳴を感じさせる、私たちの同時代の音楽だ。80年代の名作「カーラ」と「マートラ」はインド古典音楽の手法を取り入れ、激しくリズミカル、2002年の「ヤントラ」、2009年の「プンダリーカ」(濁流から花開く純白の蓮華を表わす)は瞑想的で、金属打楽器を多用した奥行きのある残響の美しさがインド宗教画の絢爛豪華な色彩を思わせる。上野&フォニックスの深くしっかりと厚みを持ったサウンドは、アンサンブルというよりオーケストラ的な効果を作り出している。グループのタイトなクオリティと正確さが、縦横無碍なマリンバとティンパニのソロ・パートをしっかりと支える。「プンダリーカ」の上野信一、「カーラ」「マートラ」の木次谷紀子(マリンバ・ソロ)、上野(ティンパニ・ソロ)は特に聞きもの。
作曲者西村朗はこのCDに次のような推薦文を寄せている。 現代日本を代表するパーカッション・グループのひとつで、今日、きわめてヴィヴィッドかつクリエイティヴな活動を展開している上野信一&フォニックス・レフレクション彼らの表現意欲に満ちた周到入念なリハーサルとレコーディングによって、最近作を含むこのCD作品集が生まれたことを作曲者として歓喜している。 ここには五感を揺さぶる打楽器群の静動多彩な響きを通しての私のアジアへの熱い思いが、生々しく赤裸々に、また幻想的に脈打っているように感ずる。彼らの素晴らしい演奏の力によるものだ。
1.プンダリーカ(2009) モーター速度の異なる2台のヴィヴラフォーン、チューブラー^・ベル、クロマティック・ゴング、アンチーク・シンバルを使用。混濁の泥中より生じ、泥に染まらず真っ白に咲く白蓮華のイメージ。 2.ヤントラ (2002) ヒンドゥー教やジャイナ教で瞑想のために使用される図像「ヤントラ」および、チベット仏教の宇宙図「時輪タントラ」にインスピレーションを得た作品。 3.カーラ インド古典音楽において、時間の周期をあらわす「ターラ」が同心円的に重なり、早いテンポで旋回する。タイトルの「カーラ」は「時間・速度」を表すサンスクリット語。クールでかつ情熱的な木次谷紀子のマリンバ・ソロが圧巻。 4.マートラ インド古典音楽に基づいた、いくつかの異なるリズム周期の複合体として校正されている。タイトル「マートラ」はこのリズム周期のもととなる時間単位のエッセンスを示す語。精密なリズム・アンサンブルを背景にした木次谷紀子のマリンバと上野信一のティンパニのソロがクライマックスへと盛り上げる。
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